大阪高等裁判所 昭和25年(う)973号 判決
(イ) 憲法第三十七条第二項において刑事被告人はすべての証人に対し審問の機会を十分に与えられる旨規定しているのは、裁判所の職権によりまたは訴訟当事者の請求により喚問した証人の尋問実施に際し被告人の利益を保障するため直接に反対尋問の機会を十分に与えなければならないという趣旨に外ならないのである。
従つて被告人に尋問の機会を与え得ない者の供述を記載した書類とか任意性検討の方法のない書類を証拠とすることを禁じた意味はないのであり、かかる書類を証拠として取調得るかどうかは専ら訴訟法上の解釈問題であつて、憲法上の問題ではないから、所論証拠を証拠に供したこと自体は何ら憲法に違反するところはないものというべく、この点に関する所論は全く採用するを得ない。
さらに原審において被告人の犯行を官憲に告知し捜査権の発動を促す匿名の投書を検察官より取調べの請求があつたのに対し被告人及び弁護人が同意しなかつたのに拘らず、原審がその取調をしたことは所論のとおりである。
然るに右書類は畢竟他人の供述を内容とするに外ならないから、刑事訴訟法第三百二十一条乃至第三百二十八条の規定する場合以外は証拠となし得ないのに拘らず、原審がこれらの要件なくして証拠調をしたのはその方法の適否を検討するまでもなく明らかに違法たるを免れない。
(ロ) しかし右投書は原判決が証拠として引用していないのみならず、その引用の証拠を仔細に検討考慮すると、右投書の取調がなかつたとすれば原判決の刑が更に軽くなつたであろうという関係の存在、即ち右投書の違法な取調が原判決に影響したであろうということはとうてい認め難いから、右違法は原判決破棄の理由となすを得ない。